ビジネスマナーにやたらうるさい上司がいますが、マナーの正解って何でしょうか?【角田陽一郎×加藤昌治】
あんちょこ通信 第10回
皆さまこんにちは。「あんちょこ通信」編集長のカイノショウです。
あんちょこ通信では、ビジネスパーソンのお悩みを解決する『仕事人生あんちょこ辞典』著者の角田陽一郎、加藤昌治が、みなさまから届いた「仕事人生のお悩み」にパシパシ答えていきます。
お悩み相談は、定期的にYouTubeでも「お悩み”あんちょこ”ライブ相談会」として配信しています。そちらもぜひご覧ください!
さっそくお悩みを紹介しましょう。
23歳・男性・IT関係
「社会人一年目です。指導係の先輩がビジネスマナーにうるさい人で困っています。例えば取引先のメールで、『よろしくお願いいたします』と書いたら、『どうぞよろしくお願い申し上げます』に修正したり、『先輩の話を聞くときは片膝をついて聞くこと』と言って強制してきたりします。そんなマナーは聞いたことないのですが。ビジネスマナーを強要する人ってどういう気持ちなのでしょうか?」
社会人経験が少ない頃はもちろん、ある程度経験を積んだら積んだで「今の自分に相応しいビジネスマナー」は気を遣うものですし、それだけに「自分のやり方があるからほっといてくれよ」とも思いがちです。
社会人とマナーとの距離感は、どうあるべきなんでしょうか?
■マナーには「幅」がある
角田:今回はビジネスマナーの話ですね。一般に「マナー」って、「それをやっておいたほうが生きやすいから、知っていて損はない」というものですよね。
それがどこかで閾値を超えて「このマナーを守らないといけません」という話になると、逆に生きづらくなる。僕も強要されるのが嫌でネクタイなんかも全然持ってないから、その気持ちはよくわかります。
加藤:質問者の方が具体例で挙げた、「よろしくお願いします」を「どうぞよろしくお願い申し上げます」に変える先輩のこだわりは、別にそうしなくてもいい、過剰なルールになっている気はするな。
角田:それは賛成だけど、じつは僕はメールでは「よろしくお願い申し上げます」と丁寧に書くんだよ。
なぜかと言うと、僕は髪も緑色だしでネクタイもしない、「業界のチャラチャラした人」って印象が見た目あるでしょう? そんな人が「よろしくお願い申し上げます」と書いていると、受け取った側は「あれ、思ってたより丁寧な人だ」と思ってくれるんじゃないかという、一種の逆張りがある。「下手に出ているんです」という気持ちを文面で表現しているんだよね。
でも、質問者の方の先輩みたいに「こういうマナーなんだ」というよりも、そのほうが僕の居心地がいいからそう書いているだけだな。「ここでは下手に出たほうが生きやすい」という考えが僕の中で成立しているから、丁寧な文体になっているんだよね
加藤:そう考えると、質問者の方の先輩が、どんな相手でもどんなシチュエーションでも「どうぞよろしくお願い申し上げます」と書けというのは、マナーとしては視野が狭い気がするね。マナーが画一化して、ルールになってしまっている。
「マナーは幅」だと加藤は思っているんです。もちろんマナーの大本には「相手に失礼じゃないように」とか「話がスムースに進むように」という意図があるのが原則だよね。
その上で、相手やシチュエーションによって、適切な丁寧さの度合いはある。
いついかなる時も「どうぞよろしくお願い申し上げます」と書けというのはマナーのルール化のようだけど、相手によって「どうぞよろしくお願い申し上げます」がベストだったらそう書けばいいし、「よろしくお願いします」でよければそれでもいい。その幅の中でどうするか、という考え方と実践があるといいんじゃないかな。
角田:分かる。例えば「××様」と宛名を書くときに、メールだと漢字で書く場合とひらがなで書く場合があるよね。僕は知り合ってはじめのうちは「××様」みたいに書くけれど、その後会食したりして仲良くなった相手には、親しさを込めたい時に「××さま」とひらがなで書くよ。
加藤:「幅」ってそういうことだよね。
だから質問に答えると、ビジネスマナーは無いよりもあったほうがいいから、知っていたほうがいい。ただ、質問者の方が先輩から言われた画一的な「マナー」に関しては、面と向かって逆らわなくてもいいけれど、いつも従うべきものでもないと思います。
加藤の肌感では、社会人1年目の人のメールは、過剰敬語になっていたり、妙に表現が堅すぎる傾向があるように思えます。実際のビジネスで使う表現は、普段友達とSNSやメッセージアプリでやりとりする時よりも硬めのはずだけれど、その感覚を掴むまでに回数が必要になるんですよね。
角田:やり取りを通じて覚えるところだよね。
加藤:とは云え仕事相手に勝手に変なメール送るのもよくないから、まずはCCで来た上司や先輩のメールを見たりして、「こういう書き方もあるのか」と取り入れていく部分があってもいいんじゃないかな。
■そのマナー、「理由」はなんですか?
角田:メールのマナーに敢えてつっこむと、「どうぞよろしくお願い申し上げます」みたいなレトリックなんて本当はどうでもよくて、むしろ「伝えるべき情報が入っていない」という面でマナーがなっていないメールが多くないかな?
例えば7月20日にやりとりしているメールで、8月の予定について打ち合わせているとするよね。それまでのやりとりがあったとしても、「26日のミーティング、よろしくお願いします」と月を省略して書くと、7月のことと勘違いしてしまう。だから日付は省略しないほうがいいし、打ち間違いもあるから、僕はいつも曜日まで入れるようにしているんだ。
加藤:たまに日付と曜日がずれていることってあるよね。
角田:そうなんだよ。日付と曜日がずれていたら、メールを受け取ったほうは「少なくともどちらかが違う」という認識にはなるから、「月曜ではなくて、水曜ですよね」みたいに確認をできるんだ。「●月×日(△)」と曜日まで必ず書く、みたいなことのほうが、「どうぞよろしくお願い申し上げます」と書くかどうかより、仕事を円滑に進めるためのマナーとしてよほど重要だよ。
じゃあ何が「伝えるべき情報」かというと、まずは「自分がやられたら気になることはケアする」ぐらいの判断でいいと思う。
僕の場合、べつに相手のメールの末尾が「よろしくお願いします」でも気にならないから、それはそれでいい。ところが、初めての取材申し込みなのにギャランティーが書いてないと「だから、出演料はいくらなんだよ!」とイライラするから、自分が依頼する立場の時にはそこはケアしているよ。
加藤:角田くんの「勘違いが少なくなるから、曜日まで入れたほうがいい」みたいに、マナーの効果・効能がちゃんと説明されているなら、それこそ「『どうぞよろしくお願い申し上げます』と書け」みたいな話にも得心がいくだろうけれど、ただ「こう書け」と例文だけを与えられてもうまく使えないだろうね。
ある商社さんでは、社内文書を書くときに「2行書いて、1行空けて、2行書いて、1行空けて……」という形式で書くマナー、というよりは社内ルールがあると聞いたんだ。理由を聞いたら、「こうすると、すべての行が前か後で必ず空白に接してる。だから直しやすい」と云うんだよ。
角田:なるほど。確かに見直しやすいだろうね。
加藤:一見不思議なルールだけど、そう云われたら素直に従えるよね。だから、なぜそれがマナーになっているのか理由が分かるだけで、その後間違えなくなると思う。
だから質問者の方は、「『どうぞよろしく申し上げます』と書け」と添削が入った時に、「それをつけるとどんな効果があるのか」をやんわりと聞いてみるといいんだろうね。その上で、納得できたら採用すればいいんじゃないかな。
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